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サッスオーロのカウンターを「見る」〜ひし形プラス1とスペーシングローテーション

はじめに

まずはこの動画をご覧ください。

サッスオーロの守備からのカウンター。

攻撃に関わった選手に圧倒的なスピードがあったわけではありませんが、確実に相手を遅らせ、相対的に速く攻めることに成功しています。

ゴールとはなりませんでしたが、「なんかすごい!!!」と思った人は少なくないはずです。
巷では「素晴らしいパスワーク」といった言葉で評価されるのではないでしょうか。

しかし、「なんか」とはなんでしょうか?笑
「素晴らしい」とはなんでしょうか?

今回の記事のテーマは、観戦中に「曖昧なイメージをできるだけ簡単に明確にする」ことです。

今回は、先程のサッスオーロのカウンターについて、「ひし形プラス1」と「スペーシングローテーション」という観点から、何が起きたかを覗いてみましょう。

目次

シーンの全体像

まず、全体のざっとした動きについて図時します。

青い丸🔵がサッスオーロの選手、赤い丸🔴がカターニャの選手です。

番号は背番号ではなく、便宜上のものです。
🔵5、🔴3などと選手を示す際に使います。

さて、何が何やら、、、となる人は少なくないと思います。
情報が多く、整理されていない時ほど物事はわかりにくいですね。

シーンの一部

続いて、選手を半分ほど減らして、特に局面に関わった選手で何が起きたのかを見てみましょう。

これでもまだわかりにくい気がします。

戦術について学んできた人は「なるほどな」となるかもしれませんが、そうでない人には難しいかもしれません。

ひし形プラス1

そこで、さらに情報を減らし、まずは🔵1~5の立ち位置だけを抜き出して、線を引いてわかりやすい図形にしてみましょう。

※今回の記事では、ひし形の右、ひし形の左など用語として使用するので、ご確認ください。

実際は多少のズレはありますが、このように選手を繋げてみると、少ない情報で全体像をを把握できます。

僕は、この状態を「ひし形プラス1」と呼んでいます。

ひし形を作る4人に「プラス1」として1人(画像では🔵3)が絡み、主にその5人でパスと配置の交換が行われる状態です。

「パスで相手を崩した!」とみていた人が感じるような連携の際、それぞれの選手がボールホルダーからのパスコースを確保するため相手に対して角度を作り、なおかつ受け手同士が同じコースに立たないことで多くの選択肢を確保できている時、このような構造になっていることが多いです。

※こうでなければダメだ、とこれ以外の構造を批判の対象にできるような基準ではありません。

2つの三角形

また、この5人の連携をさらに2つの三角形に分けて考えることで、小さい局面のポジショニングがどのように繋がって全体を構成しているかをわかりやすく理解することができます。

今回は、黄色い三角形を「三角1」、赤い三角形を「三角2と呼びます。

プラスワンの選手が両方の三角形に関わっているのは非常に重要なポイントです。
これによって、より前に進みやすい連携が行われます。

今回は、「ひし形プラス1」と「2つの三角形」で🔵1~5それぞれが関わる局面について

  • 三角1=ペナルティエリア付近
  • 三角2=センターサークル付近

の2つの段階分けて見ていきましょう。

それぞれの局面

ペナルティエリア付近

ここからは絡んだ相手のことも書いていきます。

また、パスはそれぞれ「パス②」などのように順番で示していきます。

ここでは、DF🔴1を囲んだ🔵1~3の3人で作った「三角1」でパス回しが行われます。

数的優位を活かすため、それぞれが適切な角度と距離感を保った”結果”、三角形で相手を挟むような構造になります。

この「結果」というのは重要です。

チームの構造上出来やすかったり、ある程度のトレーニングを積んでいるはずですが、「三角形を作ろう」としているわけではありません。

パス②が始まった段階で、🔴2が前から守備に行き、パス③のバックパス後もそのままプレスを続けますが、カットすることはできませんでした。

ペナルティエリア付近からセンターサークル付近へ

🔵1→🔵2→🔵3→🔵1と、三角1を構成する3人の選手が一周パスを回して、🔴1に数的優位を確保しなおかつ🔴2(と、近くの選手を抑えに行った🔴4)を「引き出した」状態です。

さてパス④では、🔴2を引き出したことで空いたコースを使って、菱形の底から頭まで一気に縦の浮き玉が通ります。

ここで局面は次の段階である「センターサークル付近」に移ります。

ちなみに、三角1で連携が行われている時、ひし形の左に位置する🔵5が徐々にポジションを上げていきます。

そして、マークをする🔴6はもともと攻撃のために幅を取っていたため、🔵5よりタッチラインに近い位置から、🔵5の移動に少し出遅れて帰陣を始めます。

三角2の一角がポジションを上げ、より高い位置で連携をする準備が、ゴールキーパーのパンチングの時点で始まったわけです。

センターサークル付近1

2つ目の局面は、1つ1つのパスについて細かく見ていきます。

まず、パス④のパスはひし形の底から頭へのパスから始まります。
三角形1から三角形2への連結部になります。

このパスに🔴3が「食いつき」ますが、🔵4は冷静にバックパス(=レイオフ)。

「プラス1」にあたり、三角1の連携を終えて前進してきた🔵3がこのパスをフリーかつ前向きで受けます。

🔴3にとっては届かない位置で良い状態でボールを持たれることに。

パスコースを切ることも、プレッシャーをかけることも難しい、DFとしての役割を果たせない状況で、後ろ向きに戻ることを余儀なくされます。
さらに、後ろ向きに戻ったことで、新たに手前にスペースを生み出し、そこを使われることになります。

守備側にとっては🔴2が食いついたことで中央にできたスペースを利用されて、全体が混乱。
典型的「ネガティブトランジションの準備」ができていなかったといえる状態です。

しかし、攻撃側にとっては、「プラス1が効果的に効いた」シーンでもあります。

ここで、「パス④=楔の縦パス」と「パス⑤=バックパス」についてプラスワンが果たす役割を、ひし形の構造から始めてひとつひとつ確認しておきましょう。

ひし形とプラスワンの意味

ひし形は、ボールホルダーに対して受け手が3人いて、それぞれのパスコースが被っておらず、それによってより前方へパスを送りやすい構造です。

この状態は、ひし形の左右が自分をマークするDFとボールホルダーを結ぶ直線に対して角度を取り(詳しくはこちらの記事で)、ひし形の頭がその間で顔を出しつつ深さを作ろうとする結果出来上がります。

実際には守備側にも能動的な手段があるはずですが、勉強不足なので後々

それに対してひし形プラスワンは、ひし形を2つ重ねたような状態で、同様にひし形の「前方へのパスの出しやすさ」を発揮します。

そして、プラスワンはボールホルダーからの縦パスを受けられることはもちろん、同時に縦パスを受けた「ひし形の頭」からバックパスを出来るだけ前で受けることで攻撃にアクセントをつけられる存在です。

楔の縦パスを受ける選手は目指すゴールに対して背を向けるざるを得ないことが少なくありません。
(ひし形を斜めに配置すると、ゴールに対して半身になることも可能)

ボールを受け前を向く動作をすると、多少の時間のロスがあります。

しかし、「ひし形の頭」の選手が前を向く時間のある「プラスワン」や「ひし形の左・右」の選手にバックパス(レイオフパス)することで、前進のスピードを殺さないままに次のプレーに移行することができます。

プラスワンは、ひし形の両サイドよりも前にいることでより速い攻撃へと繋げられる経由地であり、また「ひし形の頭」を追い越してフィニッシャーにもなりうる、攻撃の要です。

センターサークル付近2

再度ボールを受けた「ひし形の頭」にあたる🔵4は、🔴3が開けた空間を使い悠々前を向きます。

この時、🔴3はパス④に「食いついて」もともといたエリアから大きく飛び出しています。

この裏のスペースに前述の「ゴールキーパーのパンチングの時」から黙々と前進していた🔵5が侵入していきます。

この局面では、回転を意識すると比較的簡単に何が起きているのか理解できます。

ここでのポイントは「役割を交換する」ことです。

ひし形プラス1とスペーシングローテーション

改めて、ひし形プラスワンとは、選手がこのような配置につくことです。

そして、役割を交換する、とは、選手が最初に立った配置から、他のところに配置を変えることです。

結果として芋づる式に3選手がくるっと回ったりすることが多いです。

実戦では、例えば下図のような交換が行われます。

🔵3が🔵5の位置にずれ始め、 空いたスペースに🔵4が下がり、さらに空いたスペースに🔵5が入っていく。

3人がぐるっと回ったような状態です。

こういった動きは、特にマークの意識の強いディフェンダーやチームに対して有効です。

攻撃の選手の動きに、守備が食いつくことで、新しいスペースができる。そのスペースを使うことで、新しいスペースができる。

このような役割の交換によって起きる回転を、僕は勝手にスペーシングローテーションと呼んでいます。(勝手にです笑)

余談ですが、このスペーシングローテーションは、3人での連携(三角形)や、4人での連携(ひし形)でも頻繁に行われます。

この動画で確認してみましょう、

早くてわかりにくいですが、3人や4人でポジションを回転させていく姿が確認できるかと思います。

話を戻しましょう。
今回のサッスオーロの前線では(角度は異なりますが)こういったスペーシングローテーションが行われ、結果的に抜け出した5番へとパス⑦が通ります

シーンに話を戻しましょう。

スペーシングローテーションでできた前方のスペースに、ひし形プラスワンとしては最後のパスが通ります。

~シュートまで

動画を改めて確認してみてください。

🔵5の選手が縦パスを受けた時点で、相手の陣形をかなり崩せているのがわかるかと思います。

ここで、さらにゴールに近づくために、もう一人の選手がフィニッシャーとして絡んできます。

最終的にシュートを打った🔵6は、チームの守備中の意図に従って、カウンター要員として残っていたはずです。

全体像とユニットがスムーズに繋がった瞬間です。

全体像とユニットの関係

  • 各選手がパスを受けたり、前進するためにとる「個人のポジショニング」
  • 11人のうちの数人が作りだした「三角形」
  • 5人がそれぞれディフェンダーに対して角度をつけてエリアを攻略した「ひし形プラス1」
  • 土台としての「チーム戦術」

これらは、それぞれ繋がっています。

一人一人の選手の動きがユニットを生み出し、それらが成し遂げる中央エリア攻略(=ミクロ)が、「幅取り」や「カウンター要員」などチーム戦術(=マクロ)へと滞りなく繋かることで、よりスムーズで強力な攻撃を成立させることができます。

ミクロとマクロの整合性をとること。
それをチームが、一人称の選手がピッチ上でスムーズに再現できるようにすること。

具体と抽象を行き来するというのは、きっと監督やコーチスタッフが高みを目指すために必要な能力なんだろうな、と感じます。

ディフェンスについて

今回のカウンターについて、ディフェンス側の状況も振り返りましょう。

まず、カウンターを受ける前、攻撃の際にDFラインと中盤にスペースができやすい構造になっていたことは確かでしょう。

「攻撃の陣形がそもそもリスキーだった」と言えばそれまでです。

その状況下でも、例えば🔴2や🔴4が遠い距離からパスに食いつきすぎず、全体としても早めに撤退を始めれば、中央のスペースは使われなかったかもしれません。

また、そこに通ったとしても🔴7がその時点で自分のサイドでゆっくり上がってくるマーク対象を無視してより危険な中央のエリアに加勢していれば、 フリーで前を向かせることなく時間を稼ぐことができたかもしれません。

確かに、安定した守備と安定した攻撃の両立は、強くあるためには必要不可欠な条件でしょう。

しかし、そういったエラーは采配や戦術上受け入れている・受け入れざるを得ないリスクや、得失点の状況など、様々な理由でどんなチームにも起きうるものです。

監督の手腕などの曖昧な表現では表現できない要因がたくさんある、ということは、サッカーを観ていく上で必要な能力かもしれません。

どんな原因があるにせよ、相手のエラーを確実にシュートまで繋げることができた今回のサッスオーロの攻撃自体は間違いなく美しい連携です。

まとめ

「ひし形プラスワン」は、こういった美しく複雑な連携を観戦している人ができるだけ簡単に把握するために使える便利グッズのようなものです。

全体を見て情報の多さに悩むのでなく、小さいエリアで何が起きたかを少ない情報量の中で知ること。

2人、3人で作った優位がチーム全体の優位につながること。

みなさんの好きなチームが何をしているのか、こういった視点から見てみると、また新たな発見があるのではないでしょうか?